「めがね(3枚組) [DVD]」

「かもめ食堂」と同じ監督さんの昨年公開の作品。同じように、レンタルで鑑賞。
小林聡美もたいまさこがでてくるところは前作と同じだが、二人の立ち位置は前回と反対のように見えた。「かもめ食堂」では、小林聡美がどちらかといえば「主人」としてどっしりと存在し、もたいまさこがその影響を受けていくように見えたが、今回はもたいまさこがどっしりと中心にいて、小林聡美がだんだんと彼女の影響を受けていくように描かれている。同じ役者さんなのだけれど、人物としての立ち位置も演じ方も違っていて、そのあたりがとても面白い。もたいさんが主役のような存在感を放っていて、身体の動きを見ているだけで引き込まれてしまう。ちょっとつっけんどんな若い女性を演じていた市川実日子さんは、「嫌われ松子」の妹役だった人かな。
しっとりと落着いた空気が流れる癒し系の映画、などと評されそうだが、登場人物のキャラクターがうまくできていて、ゆるゆるとばかりもしていない緊張感もある。つまり、みんな必ずしも「いいひと」としてだけ存在しているわけではないのがいい。一人ひとりに、若干過剰なおせっかいさであったり、人に心をなかなか許さないところであったり、自分の構えを決して崩さない頑固さであったり、そういう、人間として付き合う際に見えてくるような「いやなところ」「冷たいところ」がちゃんとある。この映画では、先入観もあって表面上いい人に見えるのだけれど、そういうところを一人一人の登場人物に感じ取ることができる。でも、そういう点をちゃんと描いていることに、この映画の良さがあるように思えた。つまり、だれしも初めから人を受け入れられるわけではなくて、それなりの時間と探り合う過程を経て、そういった嫌なところを含めて、ここにいっしょにいてもいいかな、いっしょにご飯をおいしく楽しんでもいいかな、と思うに至るのだよね、という作った人の思いが伝わってきた。
どんなに打ち解けて長く一緒にいる仲間でも、ちょっと気に入らないところとかはあるものだ。それでも、生きている間のある一時期に一緒にいて時間を共有することの貴重さ。ただ自分を受け入れてくれるところを描くゆるさではなくて、その若干の緊張感を含んだ信頼感というか心許せる感じというか。それが丁寧に描かれている気がしたので、とてもいいなと思った。