清水義範「早わかり世界の文学―パスティーシュ読書術 (ちくま新書)」

本を少し読み始めたころ、この人ほど面白く思える作家はいなかった。文章だけでこんなに面白くていいのか、と驚きとともに、尊敬してしまった覚えがある。ある意味、清水義範はヒーローだった。もちろん、今昔に読んだものを読んでもその面白さは変わらないだろう。
そんな著者がおもしろおかしく話した3つの講演を文字に起こしたものに、自身の解説文をつけたお買い得なこの新書。
特に、タイトルにあらわされている、パロディから見た世界の文学案内をしてくれる一章が非常に面白かった。ドンキホーテ、ロビンソンクルーソーガリバー…さすがに模倣文学(といっていいのか)パスティーシュの大家である。次々と世界文学におけるパロディの歴史とその裏話を語っていく。しかも、それがただの模倣ではなく、いかに世の人に読まれるような面白さを獲得しているかを熱をこめて語る。著者でなければここまで詳しく「パロディ」という側面からは話せないだろう。ロビンソンクルーソーにヒントを得て、それを批判するように書かれたガリバー旅行記のことなどは知らなかった。アイルランドの歴史も絡んでいるのだ。有名な話なのかもしれないが、知らなかったのでとても納得してしまった。ドンキホーテにまつわるお話も詳しくて面白い。
付属している、著者がパスティーシュに目覚めた経緯と代表作を紹介してくれている文章も、清水義範入門編としてとてもよい。
2つめ、3つめの講演は、彼の作品や過去の文章論(『わが子に教える作文教室』)を読んでいるとそれに中身がかぶっており若干残念だったが、小説の面白さ、自身の創作方法を彼特有のユーモラスでやさしい口調で述べており、著者のことをあまり知らない人にはおすすめ。

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