吉田たかよし「勝てる子供の脳―親の裁量で子供は伸びる (角川oneテーマ21)」

これまであまり手を出さなかった、「脳」の面から学習法などを指南する本。だいたいそういう本は、立ち読みすればどういう内容かわかってしまうことが多い。この本もご多分にもれず、「セロトニン」とか「ミラー・ニューロン」という言葉を使って科学的に見えるがそれほど深い内容に立ち入るでもなく、若干の半端さが目立つ。
それでもこういう本がたくさん出るのは、やはり需要があるのだろうなと思わざるを得ない。多少専門用語っぽい言葉を巧みに用いて「この習慣で勉強ができるようになる」と言ってくれるとやってみようかなと思う、というある意味、他者頼りな親がかなりの数いるのだろうなと思う。学習習慣とかそういうものは、本を少し読んで影響されてやってみてどうにかなるものではないのである。
しかしこの本が面白いのは、その「一朝一夕にどうにかなるものではない」ということを著者自身の経験から語ってくれていることである。すなわち、子どもに例えば「今日はどうだった?」「何を勉強した?」などと語りかけ、子どもが自分の体験したことや勉強したことをアウトプットしようという気になるように仕向けていくこと。問いかけ、子どもの言うことを聞いて適切に誉めてやり、子どものやる気を出させること。著者は「プレゼン学習法」と名づけているが、こういった親の、子どもと熱心に語ろう、話そう、とする姿勢が子どもの頭をよくするのだ、という主張は実にそのとおりだと思わされる。
問題は、それを全ての親ができないだろうことである。この本を買う意欲はあっても、自分の時間を割いてでも、子どもと語ったり、子どもに語らせたりする時間を懸命にとろうとする親はなかなかいないだろう。本を子どもに読ませたければ、自分が読むところを見せるしかない。子どもに勉強させたければ、自分も共に勉強しようとする姿勢を見せるしかないのだ。そしてそれはとても時間のかかることなのである。
『親が勉強すべき唯一の科目は「国語」』とか『子供が伸びるかどうかは親次第』というところには実に真実を突いているように思う。親と子の読解力や語彙力には相関があるというところも、塾で教えた経験からも納得がいく。本の体裁やタイトルはお手軽なようでいて、実はかなりお手軽でないことを求めている。嘘はない本である。