ポール・オースター「トゥルー・ストーリーズ (新潮文庫)」

ゴールデンコンビによる、日本独自編集によるエッセイ集とのこと。もともとどのようにばらばらになっていて、それぞれがこれまでどのように処遇されてきた文章なのかはわからない。しかし、このように楽しい時間を送れるような形で本にしてくれた二人に感謝。
「ほんとうのはなし」と、ノンフィクションですよ、というタイトルながら、フィクションなのではないかと思ってしまうような偶然の話をもとにしたエッセイの数々。その偶然に秘められた人生の面白さ、哀しさは、どこか少し前に読んだ、こちらは「フィクションですよ」と明確にするタイトルであるように思える村上春樹の「東京奇譚集」を思わせた。こういうものを読める時間を持てる幸せ。
中盤に収められた著者の貧乏生活を描く「その日暮らし」がめっぽう面白くて、なんども笑ってしまった。こういう「底」ともいえる場所を経てきているからこそ、いろいろなお話を紡ぎだせるのだろうな。貧乏話も、食べ物がないとか暮らす場所がないとか、ただ自分の周囲数メートルの悲惨さだけでなくて、その周りにいて生きているさまざまな(貧乏だったり、それを傲慢に見ていたり)人間の姿をこうして描いてくれるほうが、個人的には面白く思える。