「爆笑問題のニッポンの教養 現代の秘境は人間の"こころ"だ 芸術人類学」

有名な人だが、その仕事とは関係のない一般向けの本(「僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)」)しか読んだことがない中沢新一先生。
多摩美術大学で芸術を教える彼を、爆笑問題が訪ねるテレビ番組を書籍化したもの。番組自体は見ていないが、彼の考えるところ、仕事を概観できるかと思い購入。おおよそ狙い通りだった。
ばらばらに見えたその仕事を貫く問題意識が、爆笑問題の二人との会話によって引き出されていて、とても興味深く読めた。しかも、本ならではのブックガイドとその解説もありがたい。
学問とはリニアで線形的なものだが、自分のやりたいのはノンリニアなものだ、学問の決まりをとっぱらったところでやっていきたいのだ、という中沢先生。お笑いも同じだ、とそれをフォローする太田のコメントがまたいい。

だから中沢さんのやってることはすごく大変だろうなと思うわけですよ。直感的なアドリブがあって、それを言葉や理屈が追いかけていくわけで、つねに追いかけっこですから。(p93)

確かに、このやりかたは、きっちり考証して考えを一歩ずつ進めていく学問の普通のやり方とはだいぶ違う。しかし個人的には、言葉や理屈がちゃんとついていれば、それもありだ、と思う。その方が好きだ。
学問がリニアであるべきだという考えは根強い。自分の研究の方向、キャリアパス、などを考えると、これの次はこれ、さらに次はこちら、と研究の進み方がリニアであるほうが見通しがいいのは確かだ。競争が激しい学問の世界にあって、圧倒的に将来を設計しやすい。しかし、それでは面白いものは生みだせないだろう。ノンリニアに、直感を大切にしてやっていく学問のやり方は、見通しが立たない分不安に打ち勝つ精神力が必要だが、新しい研究と学問の萌芽はそういった不安の中から生まれるのではないか。理屈などあとでつければいい。一歩ずつ展開する研究など、誰にでもできるのだ。飛躍しているようでつながっている、そういう研究にあこがれる。
不安のなかから、自分の学問を生み出していったその気持ちもうかがい知れて、読みやすいわりに実に面白かった。そんな彼の思考を少しでもたどっていけたらと、読み終わって読書欲が増した。