山田玲司「非属の才能 (光文社新書)」

表紙裏の要約には、『「みんなと同じ」が求められるこの国で、「みんなと違う」自分らしい人生を送る方法はあるのか?』とある。
さまざまな人々にインタビューをしてきた漫画家の著者が、「そういう方法は確かにある」ことをさまざまな実例から断言し、読者に勇気を与えてくれる一冊。そうした生き方を、「どこにも属さない」という意味での「非属」というキーワードによって示していく。
人間は弱い。そして自信がない。みんなが大学に行けば行きたくもなる。みんなが就職(もしくは進学)すれば、そこから完全に外れるのは怖くなる。いや、俺はそうではない、自分は自分なりの生き方をするのだ、というプライドを持っている人でも、案外「みんなと同じ」という呪縛からは抜けられていなかったりする。みんなと同じところには行きたくない、と言いつつ選ぶ大学はやはり偏差値で選んでいたり。何も考えずに博士号を取る人間とは違う、といいながら就職する人間も、結局周囲の動向を気にしているだけだったり。就職したのち、「ずっと同じ会社に勤め外に出ようとも考えないような、迎合し流される生きかたは嫌だ」といいながらも、「第二新卒」という言葉に乗せられたように転職を考えたり。
みんなとは違う、と思った時点ですでに、著者が『人生の定置網』と名づけるようなものに絡み取られている。みんなとは違う、ということを売りにすれば付加価値をつけて商売にできる、と思う人間などいくらでもいるのである。本当に誰とも違う生き方を選ぶのは、他人を見ている時点で無理なのだ。ではどう考えていけばいいか、という指針やアイディアはこの本をぜひ読んでもらうしかない。
しかし、本当に「非属の才能」を持つ人間は、そもそもみんなと違うことを、などと考えない(しこういう本も読まない)のだろうなと思った。よくわからないけど周りと折り合えない、そういう気持ちを大事にし続けることが才能の萌芽となるのだ。それを保持しつづけるのは、慣れればどうってことはないが、なかなかにしんどいことだ。いくつかのヒントはこの本にあるし、それをもとにして「非属の才能」を見出すことができる人もいるかもしれないが、かなりの部分は、子どものころからの親の教育や心持ちの問題であるような気がしてならない。
この本の面白いところは、最後まで読むと結論が一回転しているようにも読めるところだ。行列に並べない人間こそ「非属の才能」があると言いつつも、その誰にも属さない生き方をより突き詰めていくと、結局「楽しいことと思えば行列に並ぶことすらいとわない」態度に行き着くのだという。
確かにそうかもしれない。独自の才能を持つ人は、「それは流行しているから嫌だ」とは言わないものだ。なんでも面白いと思えるものはやってしまう。受け入れてしまう。人と違うことを、なんてことすら考えないのだ。
属さず、しかし必要以上には突っ張らず。自分の芯がありながらも、多くの人がいいというものも平気で受け入れてしまうような、つかみどころのない柔軟性をも兼ね備える。それが著者の伝えたい生き方なのだろうと思う。自分のスタンスを考えさせてくれる、静かに熱い一冊。