平山廉「カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)」

化石の研究というと恐竜やアンモナイトを思い出してしまうが、これらが発掘されるのと同時代の地層から多くの仲間が見つかる動物がいた。今でもおなじみのそれが、カメである。この本では、化石爬虫類の研究をおこなってきた著者が、発掘の苦労話も含めて、カメの進化と多様性を豊富な図から語ってくれる。甲羅と骨は一体化しているとか、首を引っ込められるカメとそうでない(横方向にしか首が動かない)カメとがいるとか、そういった事実をはじめて知ることができた。それぞれに丁寧な図があって、なぜそうなっているかがとてもわかりやすい。
化石カメの研究という実にマニアックなテーマながら、きれいに残った骨格写真や復元画(これがまた、一枚一枚見入ってしまう魅力があってよい)のおかげで、陸に海にと生活場所を広げた多様性に富むカメの様子がわかりやすい。合わせて、著者のカメへの愛情のこもった説明を読んでいるうち、読者はいつのまにかカメの魅力に引き込まれている自分を発見するだろう。最高峰の科学雑誌「ネイチャー」に化石カメの研究が載る話にも、自分のことのようにうれしくなってしまう。
隕石の衝突によると考えられる恐竜の大絶滅にも何事もなかったかのように生き延びたカメ。どのように甲羅を獲得したのか、どのように首を引っ込められるようなカメが出現したのか、などの謎を解く進化の仮説もまた興味深いものだ。
科学書としても、一般の人が読んで難しくない説明と、飽きそうなあたりでうまく挟まれる雑談のバランスがとてもよく、万人におすすめできる一冊。カメが好きで飼っている人も、これを読んで彼らのきた道に思いを馳せてみるのもいいかもしれない。