寒川旭「地震の日本史―大地は何を語るのか (中公新書)」

地殻変動によって造られた島国(「はじめに」より)」である日本。その宿命として、プレートの潜り込みによる地震のほか、「地球の表面を覆う岩盤に生じた傷(p6)」である活断層による地震も活発だ。繰り返される地震を歴史的に振り返ってみようという一冊。こう書くと堅くて手がつけづらいように見えるかもしれないが、いやいやこれが面白い。
著者は1992年に「地震考古学」という新書を出している(読んだことはない)が、その実践版といった位置付けだろうか。そもそも、この間に阪神大震災があって、著者が重く捉えてきた活断層の重要性がより認識されるようになってきた経緯もあり、現代までフォローする力の入れようはすごいものがある。
この本では、「地震考古学」の発端から説き起こし、日本の過去の地震縄文時代にまでさかのぼり、発掘作業と文書記録から浮かび上がらせていく。歴史上の遺跡は、積み重なった地層に埋もれているものだが、簡単にいうと、地震の痕跡をこの地層から見出すのである。すなわち、巨大な地震により地割れや、地上深くの砂の層の吹き上げ(液状化現象など)が起こると、その吹き上がった砂の層の痕跡が新しい地層を切り裂くように発掘される。そのあとに甕や壺が並ぶ祭祀行為の跡があれば確実だ。なるほどと思うが、このように過去の地震のあとまで分かってしまうのは驚きだ。
 しかも、その地層に残った地震の痕跡は、文書記録と照らし合わせることができる。地層に残った地震の起こった時代の日記や資料に、当時の人びとが地震の様子や恐怖を記している。どちらの方角で被害が大きかったとか、どの程度揺れが続いたとか、そういうことが書かれた文章も多いのである。それによって、今で言えばマグニチュードがどのくらいか、横揺れかたて揺れか、などの情報も推測だが付け加えることができる。本書では、こうした資料とともに一つずつの地震について紹介してくれており、地層に現われる痕跡だけでない、生きた人間の体験した地震の生々しさを感じ取らせてくれる。
 沈み込むプレートの上に乗った、ひび割れ(活断層)だらけの日本。これでもかと記される地震とそれによる被害の歴史は、そんな危うい地面の上に生まれ、地震といやおうなく付き合っていかざるを得ない我々の現実を浮き彫りにする。
 これだけの地震がひっきりなしに起こってきた現実は、地震の啓発書を読んだり予測を聞くよりも、よほど地震を怖くする。