縣秀彦「天文学者はロマンティストか?―知られざるその仕事と素顔 (生活人新書)」

国立天文台普及室長である著者が、天文学者とはどのような仕事をしている人なのか、について優しく語る。
もちろん天文学は実際にすぐに役に立つ学問ではないので、その道に進む人はたいへんだろうし、資金の調達も苦労がいるだろう。そのあたりのことも、臆せず書いてある。ガリレオさんやアインシュタインさんの歴史的な話もわかりやすくて楽しい。この「普及室長」というポスト名、だてではない。
しかし、天文学は他の理系の学問分野に比べるとすごいなぁ、と思うところがある。本にも書いてあって、自分でも実感することを二つ挙げてみる。
まず一つは、非常にアマチュアの裾野が広いことだ。昨年「ぐんま天文台」に行ったことがあるが、車でたくさんの人が望遠鏡を持って集まってくる。熟練度が高い人向けの講座などもあったり、それはそれはしっかりしているのだ。大学などの実験室でなければ研究ができないということが必ずしもないのも幸いしているだろう。子どもの頃から興味を持てて、たくさんのアマチュア天文ファンが天文台に集うなどということは、生物や化学の分野ではなかなかないことだ。
もう一つは、普及活動がとても盛んなことだ。小学生からお年寄りまでを対象にしたプラネタリウムや星を見る会がよく行われている印象がある。テレビでも雑誌でも、他の科学の分野より露出がコンスタントに多い。役に立つとは限らない学問だからこそ社会との接点を、ということを意識しているのだろう。この本を読んでいても、著者も、その知り合いの天文学者も、社会との関係を何より考えていることが伝わってくる。
これを良く表わすかのように、日本は宇宙をこよなく愛する国だと著者は言う。プラネタリウムの数はアメリカに次いで2位、天文台の数は世界一だそうだ。お金にならないことにはお金をかけなそうな日本のわりに、この手厚さ。なんだか安心する事実である。

内容も、易しいながらも最新のことや著者しか知らないだろうこと、他の天文学者の話なども交えており、さすがに普及のプロだと感じさせられる興味深さ。
組織の整理や、効率の重視がますます進んでも、ずっと星好きな国であってほしいな、と読み終わって思ってしまうあたり、みごとに著者に感化されているのだろう。