齋藤孝「日本を教育した人々 (ちくま新書)」

ウェブ時代をゆく」が置いてなくて、それでは久々に齋藤先生でも読んでみようと。
明治から昭和にかけて、日本人全体を教育するような役割を果たした人間について、その成し遂げたことや教育観を述べていく。
齋藤孝の本は一つの書評のようである。一冊かもしれないし複数冊かもしれないが、ある人の思想や生き方を、自分が本から読み解いて浮かび上がらせる。そのジャンルが広いのでその著作は雑多なようにも見えてしまうが、全ては「教育することはどうあるべきか」という切り口で統べられている。
教育することとは、「憧れに憧れる」ようにすることだ、熱を伝えることだ、という著者の理想の教師の姿はこの本でも語られる。自分が何かに憧れる、不思議だと思う、情熱を持つ、そのことを伝えて伝染させるのが教師の役割だ、という著者の考えは、教育においてあんがい見過ごされてきた視点だと思う。
教師に教えられることなんてそんなにない。しつけをするわけではないのだから当然だ。学年があがるとなおさらそうだ。そこでできるのは、何かへの熱を伝えて勉強する意欲を引き出すことだけかもしれないとすら思う。たとえば、面白い本をただ紹介してくれる先生のように。だからこそ、著者が以前より表明しているこの教育観は、とてもしっくりくるし、好きである。押し付けがましさがないところもいい。
しかし、この本に関して言えば、「身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生 (NHKブックス)」や「子どもに伝えたい<三つの力> 生きる力を鍛える (NHKブックス)」あたりを熱心に読んでいたころに比べ、自分としては説教くささが鼻についてしまった。自分の了見が狭くなったせいかもしれないし、取り上げている内容の性質上かもしれない。
しかし、好きなものを薦めこそすれ、なにかを決してけなさない著者のスタイルは健在で、読んでやる気が沸く本である。有名な話も多いだけに、中身はちょっと薄いか。
大らかに「これがいいんだよ」「こうやって生きていこうじゃないか」と宣言する、自信満々な開いた態度は著者の真骨頂。