絲山秋子「逃亡くそたわけ (講談社文庫)」

福岡の精神病院を抜け出した、恋人でも家族でもない男女が車でひたすら南へ向かうロードムービー的小説。旅の途中で精神的に不安定になったりハイになったりしつつ、主人公の相方への気持ちや、自分との向き合い方は微妙に変わっていく。

とどまりたくない気持ち、日常に帰ろうかと思う気持ち。一人の人間の中にそれらが相反してあるのはよくわかる。何も事件は起こらないのに、逃げるように南へ向かってしまう気持ちに、素直に読みながら共感できるのは作者の技だろう。
長くない小説で、さらっと結末へ向かいながらも、このあたりの心情がよく書かれているのが読後感をよくしている。旅に出て、自分の気持ちを動かしたくなってくる。
九州の言葉が心地よい。この人の小説は昨年も読んでいるけど、出たら読んでみようかと思わせるものがある。
絲山秋子「海の仙人 (新潮文庫)」 - 千早振る日々