ドストエフスキー「罪と罰〈上〉 (岩波文庫)」

「いまさら名作を読む」第三弾はこれにした。これを何の理由もなく、特にひまでもないのに、よし読もうと決心してしまう今年の自分はいったいなんなんだ。
酔っ払いが狂ったように大演説をぶつ迫力に圧倒される描写からはじまる上巻。じっくり展開していくのかと思いきや、事件は一気に進んでしまう。精神的に参っている主人公の家族との再会で上巻は幕。嵐を予感させる。
この本でも貧乏とそれに伴う諸問題が主人公に大きくつきまとってくる。古典とか名作とされているものにおける重要なテーマの一つは、あらかじめ与えられたものとしての貧乏と不公平、そしてそこからどう人間らしく生きるかということなのだなとつくづく感じる…けどこうまでいうとちょっと話がでかくなってしまっていけない。それに、それだけでもない普遍的な悩みとか生き方の問題があるからこそ読まれてきたのは確かだろう。
とはいえ、少なくとも、名と財と地位をなした人間、お金に不自由しない人間が読んだときに果たしてのめり込むような面白さとか、自分に突き刺さってくるような感じは出てこないのではないかと思ってしまう。カラマーゾフの兄弟の誰よりも弱っちく見える本書の主人公に対して、なんでそんなことでいじけたり悩んだりしなければいけないんだとちょっとでも感じてしまったら面白くない。
うまく世を渡っていける強者は、金のために人を殺そうとする気なんて起きないだろう。そこまで考えると極端だが、そういう衝動に駆られてしまうような若いときに、自分が弱い立場のうちに読んでおけ、というのも案外間違ってもいないのだ。
カラマーゾフを読んでいるので、キリスト教的な会話や、人びとの饒舌さにも大分慣れてとても読みやすい。まだ三分の一。これからである。