正岡容「小説 圓朝 (河出文庫)」

著者は、「まさおかいるる」さんと読むらしい。落語の本などによく名前が出てくる、芸能研究家・作家。この小説は1943年に刊行されたものを底本としているとのこと。いやはやなんとじっくりと文庫本になったことか。こういう本を広く読めるようにしてくれる出版社さんはえらい。
江戸後期から明治の大名人、三遊亭圓朝の評伝(といっていいでしょう)。今寄席で古典としてやられている話のなかにも、彼が作ったものがたくさんある。政治家とのコネクションもあって、落語を一つの芸能として社会に位置付けたのも彼である。落語家にとっては神様みたいな存在だろうか。

この小説では、そんな円朝の生い立ちと修業時代、明治時代に至るまでが著者が調べたことをもとに書いてある。売れない苦しさ、師匠との関係の難しさ、周囲の人間に理解してもらう大変さ…。どんな名人や売れっ子にも苦悩の時代があるが、この小説ではあとがきで書かれているように、著者が自らの修業時代を主人公の中に見出して書いたためか、自分の仕事が認められないときの心の揺れ動きがとてもよく伝わってきて、読んでいて切実ですらある。
何せ明治生まれ、寄席芸能に通じた著者のこと、登場する人物の言葉遣いがまた生き生きしていて、話し方だけで人を描き分けているようにも読める。厚い本だが一気によんだ。おもしろかった。
ちなみに、東京人9月号は三遊亭圓朝特集。これがまた濃くてよかった。この雑誌は落語特集をやっているとついつい買ってしまう。

東京人 2007年 09月号 [雑誌]

東京人 2007年 09月号 [雑誌]