斎藤兆史「努力論 (ちくま新書)」

タイトルが幸田露伴そのままである潔さ。
著者は「英語達人塾 極めるための独習法指南 (中公新書)」などで有名な英語学者。この人の、受験英語をしっかりと身に付けることが、使える英語力を高めるのだ、とのスタンスには共感している。会話を極度に重視して『使える英語』とか言うのはちゃんちゃらおかしいですよ、という主張は、受験英語のみで生きてきた人間を勇気付けてくれるところがある。
この本はそんな、「英語を努力して学ぶやりかた」について考えてきた著者が、目標を立て、努力していくことの良さを語っていくという新書らしい一冊。
同じような本では、斎藤孝に一日の長があるような気がする。しかし、こういう本は著者によってさまざまな、読者に読ませたいと感じるエピソードがおもしろいのであって、この著者のものもまた独特である。「英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)」でも取り上げられているような英語の達人たちのすさまじい努力や、升田幸三をはじめとする著者の好きな将棋指しの努力の跡など、魅力的な人間像が満載である。
特にすさまじいのが、『大漢和辞典』をものした諸橋轍次のエピソードである。全てが灰になっても、これ以上ない不幸が次々と自分を襲っても、負けずに大業を成し遂げた彼の常人には想像しがたい精神力!
読む者を思わず奮い立たせずにはおかない一冊。