佐藤卓巳・孫安石編「東アジアの終戦記念日―敗北と勝利のあいだ (ちくま新書)」

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)」の面白さが未だに記憶に残る著者の、終戦記念日に関するメディア論。
この本を読むきっかけは著者の名前を見て,というのが大きい。しかし、個人的に、同じ国内でも樺太や千島列島では8月15日を過ぎても依然としてソ連との戦闘が続いていたことを何となく(新聞かローカルなニュースかで)知っていて、興味も持っていたということも一つの理由だった。
そういう頭でこの本を見たときに、周辺諸国ではどのような意図を持って、どのように、何日に終戦を位置づけていったのかについてはなかなか知ることはないし、面白そうだと思ったのである。
実際、社会学の本だからそれはそうなのだが、新聞の記述などを厳密に追っていくあたり、読んでいて疲れるところもある。しかし、上のような興味は十分に満足させてくれた。台湾、中国、韓国、北朝鮮、そして日本国内と多面的に「終戦がいつに決められていったか」について迫る構成はとても面白い。
この本が出るにあたっての経過は、シンプルに、わかりやすくまとめてくださっている方がおられましたので、引用させていただきます。

梶ピエールの備忘録。

前著『八月十五日の神話』はあちこちで話題になった力作だったが、日本の「8月15日神話」と対比されるべき周辺国の終戦記念日の説明について、若干の疑問点も提起されていた(id:kaikaji:20050912)。恐らくこういった批判を踏まえてだろう、佐藤卓巳氏が戦争とメディアに関する共同研究を行っていた韓・中台の近現代史研究者たちとのコラボレーションを実現させ、その成果をまとめたのが、本書。
(http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20070803/)

上に書いたように、なかなか読み応えとまとまりのあるコラボレーションだったように思う。文系の学問も、一人一人で取り組むばかりが研究ではないのだな。問題意識を外に広げて、できるだけ多面的に見られるようにコラボレーションをやるというのはとてもいい方法だ。
ぜひとも、前著の「八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)」を読んでみなければ。