「天然コケッコー」

夏休みだというのに一人で部屋に閉じこもっていてはいかん、と思い、平日にはしないおしゃれをして実に久しぶりに映画を観にいった。散々迷って、決めたのがこれ。島根の田舎の小さい小さい小中学校での、女の子と転校生の男の子の日々。
満員の映画館の隅っこの席に滑り込んで座り、楽な気分で見ていたのだけれど…途中から、胸がぐっときて目が潤んで困った。海も山も空も畑も、そして出てくる子どもたちの顔も、まぶしくてきれいで。それを映し出す光のかげんも、またたまらないのだ。言葉で多くは語らせず淡々と日々が進んでいく感じ、映像で見せるところが、マンガが原作であることを感じさせない映画らしい映画にしていた。
主役の女の子、夏帆さんの表情がまたいい。わけもなく悲しくなったり、恋をしてうきうきした気分だったり、急に何かに支えられている感じがしたり(修学旅行先の東京で彼女が感じる気分が、なにかとてもよくわかる)、罪の意識でやりきれなくなったり…そういう、その年齢でそういう場面だとそういう気持ちになるよなぁ、という感情がすべてすっと伝わってくるのだ。自分が中学生高校生くらいでいろいろ感じていた思いが、再現されるように思い返されてしまって、切ないことこのうえない。
修学旅行のシーンに現れる東京と田舎の比較も、地方から出てきた人間にとってとてもしっくりくるもので、とても共感しながら見た。見ている自分は男だけど、どんどん主人公の女の子の気持ちになってしまう感じがした。
最後のほうは、一つ一つの場面やセリフにじーんときてしまった。主役の二人が並んでいるシーンがとても絵になっていて、会話も泣かせる。しかもラストシーンのうっとりするようなカメラのあと流れてくる、くるりの歌。あぁ、いいものをみた。ノスタルジックだとか、田舎がいいのだとかそういう言葉で済ませるのはもったいない、人間の普遍的な感情を見せてくれる、映画のよさがあると思った。
恋愛の話だけではなくて、田舎特有のほの暗さや秘密めいたこと・大人の事情のようなものも、田舎のあたたかさや優しさとともに、2時間を通して配されたユーモアとともにいい配分でそこにある。その一つ一つの事件も、見終わってみると小さいものだけれど、でもそれに接した女の子の表情のせいで、擦れたぼくのような大人の気持ちを十分どきどきさせてくれる。
これはほんとうに見られてよかった。ときどき見返したくなりそうだ。