新宿セミナー@Kinokuniya 『あやつられ文楽鑑賞』刊行記念「落語と義太夫のあまい関係」

直木賞作家、三浦しをんさんのエッセイの刊行を記念して、義太夫を聴く夕べが催された。女流義太夫のほか、柳家喬太郎さんが「寝床」(義太夫好きの旦那が出てくる噺)を一席やり、最後に座談会まで。
「近所のおじいさんが三味線とうなる」イメージの義太夫。プロを生で聴くのははじめてだ。女流義太夫のお二人、情念といったらいいのか、さすがに引き込まれる。意味はそれほどわからなくてもじっくり聴き入る。それにしても、言葉(と音)だけで客を引き込もうとする芸能の奥深さよ。節と、それに合わせて入る三味線が、一つの歌のようだ。
喬太郎さん、多くの名人がやってきた「寝床」を、やりづらいしやってこなかった、このイベントでのリクエストがないとやらなかった、と言いながらもみっちりとやってくれた。マクラから噺への入り方、このイベントのことからお噺に持っていくところが、久しぶりに落語を聞いたせいもあってか実に丁寧かつすぅっと入っていっていて、うまいなぁ。
CDで昔の落語家さんの「寝床」を聴いたことがないのでわからないのだが、初めて聴く知人も実に面白かったと言っていたし、必ずしも落語を聴きに来たとは限らない会場をしっかり笑わせていたので、別に遠慮することはないのに、と思った。しかしそこは昔の人の落語を知り尽くした彼のプロ意識か。「CDを叩き割ってやれたら」という少し過激な言葉もある意味本音だろう。過去の名演のCDだけで落語を楽しむ人もいるなか、どうやって今生きている落語に人をひきつけるか、差を出すか。実にまっとうで、クリエイティブな悩みだ。
そのあたりは座談会でも、義太夫についての事情とともに少し話されていて、受け継ぎつつも自分なりの個性を出すことの難しさを考えさせられた。いや、それこそが面白いとも言えるのだろうけど。