荻野進介・大宮冬洋「ダブルキャリア―新しい生き方の提案 (生活人新書)」

『景気や会社の都合に左右されない、自分なりの確固たるキャリア』を持つために著者が提案するのが、ダブルキャリアである。ひらたく言ってしまうと副業ということになるが、少し違う。著者はあくまで、小遣い稼ぎのためではなく、キャリアを築くための副業をするというライフスタイルを提案している。そこがこの本の目のつけどころの面白さだ。
この仕事でずっとやっていけるだろうかとか、自分の将来のキャリアについては誰しも悩む。そして将来のことはそこまで簡単に想像できるものではない。だからこそ著者は、まずやってみればいいじゃないかと提案する。本業以外の時間で、自分に向いているかもしれない仕事、やってみたい仕事にチャレンジしてみる。確かに生活はたいへんになるし、その結果それが本業になるかはわからないが、模索してみてこそわかることがあるという著者の考えには賛同できる。
日本の大企業で副業が推奨されず、むしろ禁止されている歴史的理由や企業の事情、法律的な問題点などについても触れられていて、実際にやってみようと考えている人を後押しできる内容となっている。むしろ新しい企業では副業を積極的に進める動きもあるなど、時代がダブルキャリアを求めているのだと著者は主張する。
それでもやってみようとするかは人それぞれだが、会社内においても会社外においても、自分が与えられた仕事だけではなく、自分の可能性を試そうとする動きを持っておくことはとても大切だ。この本でも書いてあるが、自分の今やっている仕事以外にチャレンジする仕事を業務内で持つ、いわゆる社内ダブルキャリアのようなことは、開発・研究に関わる人ならばよくやっているかもしれない。あくまで、自分のできる範囲で、自分のやってみたいことをまずやってみることだというメッセージはそれぞれが考えてみる価値がある。
もう一つこの本で面白いのは、副業を多様な働き方の一つとして認めてもらうような方向が望ましいのではないかと書いている点。もう既に言われていることなのかもしれないが、著者が取材した人の次のようなコメントはなるほどなと頷けるものがある。

ホワイトカラー・エグゼンプション裁量労働といえば、時間外手当の不当な削減であり、断固阻止というのが労働界の反応ですが、もともとの趣旨は自立的な働き方の実現にあるのですから、それらを認める見返りとして、副業や兼業の許可を積極的に求めていくことも必要だと思います(p163)

確かに、残業代もなくします、副業もしないでね、というのは理に合わない。あなたがたは会社に頼らず、自立的に働いてくださいねというのが会社のメッセージならば、副業という選択肢を封じられたままなのはおかしい。ホワイトカラー・エグゼンプションへの反対はよく聞くが、副業や兼業の許可を求めていく動きがあるのかどうか、注目してみていきたい。