梨木香歩「家守綺譚 (新潮文庫)」

西の魔女が死んだ (新潮文庫)』『春になったら莓を摘みに (新潮文庫)』と読んできて、この小品に手を伸ばす。
背景となる時代は100年少し前。物書きとして生計を立てようとする主人公が、亡くなった友人の実家に「家守」として住むことになる。季節の移り変わりとともに描かれる、動植物や亡くなった友人との交流がじんわりしみる。
亡くなった人間は自然とともにあり、我々には見えないだけですぐそばにいるのだ、というのは死者に対する考え方や想いとして我々の心に密かにあるものだ。また、昔から人々はそのように自分より先に死んでいった人々と向かい合ってきたのだろうと思う。
この本では、そういった気持ちが押し付けがましくなく底流に流れていて、歳を経るごとに死と向かいあう機会が多くなり、また自分も徐々にそちらに向かっていく人間の心に優しく触れる。先に向こうの世界へ行った人間と心静かに対話しながらページをめくるしあわせ。
かといえ重苦しい物語ではなく、ほのかなユーモアも、読むものの心をほどいてくれる。読むたびに、そういう時間にひたらせてくれるのがうれしい。