牧山桂子「次郎と正子―娘が語る素顔の白洲家」

白洲次郎・正子夫妻の娘である著者が明かす、世にも破天荒な夫婦の風景。昨年あたり「白洲次郎 占領を背負った男」をはじめとして、白洲正子の本にはまって何冊も読んだりしていたので、この本のエピソードも実に面白く読めた。二人の住まいであった武相荘(著者が整えて、一般に公開されている)を訪れておいたのもよかった。
家事ができない白洲正子と、頑固オヤジの白洲次郎。そんな夫婦の間に生まれた娘の悲喜こもごものエピソードがとても楽しい。他人だから笑って読めることでも、本人としては大変なこともずいぶんあったろう。それでも、これほどたくさんの、親についての語るべき思い出を持っている子どもはとても幸せだなと読んでいて思えた。
娘として同じ家に住んでいた頃、結婚して両親の家の隣で暮らし世話をした頃、と順に思い出が綴られているが、その間で二人の娘に対する思いや接し方も変わっていて、その変化がまた興味深い。次郎の頑固オヤジの一面が崩れて娘に甘える瞬間、自分勝手の正子が娘を尊敬する瞬間。どうってことない出来事でありながら、親子の関係も変わっていく。最初から順に読んでいくとそのあたりがわかって面白い。
しかし、夫婦の間のささいな(読んでいると可愛いとしか言いようがない)やりあいは、互いに娘を味方につけようとしたりしながら一冊を通して続くのだ。尊敬しながら、遠慮なくやりあっていただろう二人の関係は、とても羨ましい。
反発するにせよ従うにせよ、親が放任主義でも、子どもは親の生きる姿を見ているものだ。夫婦で一緒に暮らしていても、一緒に居ない時間の相手の生き方を、もう一人はそれほどわからなくても見ているのだ。自分のやりたいことを遠慮せずにやって生きること。そういう自分を持っているからこそ、親子や夫婦間での尊敬があり、互いの心のつながりもあるのかもしれないなと最近思う。振り返って自分について、親子や夫婦のありかたについてふと考えてしまう。
二人をあまり知らない人にも面白く読めるはず。

次郎と正子―娘が語る素顔の白洲家

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