猪瀬直樹「作家の誕生 (朝日新書48)」

「ピカレスク」を読んで、著者の作家評伝シリーズのうち読んでいないのは「ペルソナ―三島由紀夫伝」のみとなった。ここらで復習もかねて、著者の評伝シリーズの内容をまとめた一冊を手にした。
本文はかなりの部分が既刊の評伝と重複しているが、コラムや後書きが読めて面白かった。
コラムでは吉村昭を取り上げていて、「破獄 (新潮文庫)」をはじめとする彼の作品が好きな僕は、なるほど著者は彼のような作品を一つの目標としていたのだなと合点がいった。
評伝シリーズを通して、作家というのは文学の世界で超然としていたわけではなく、市場社会で生き残ろうと悪戦苦闘していたのだ、という考えで書いてきた著者の思考のエッセンスが分かりやすくまとまっている。ほんとうは作家だけでなく、アーティストも科学者もアスリートも、生き残るためには超然と高みを目指しているだけではだめなのだ。菊池寛が言った『生活第一、芸術第二』という言葉は、いかなる分野にもあてはまるのではないかと最近感じている。