松井秀喜「不動心 (新潮新書)」

言わずと知れたヤンキースの松井さんが、手首に怪我を負ってから自分の野球への向き合い方を語った一冊。
失敗したことをどう生かすか。自分でコントロールできることはじっくり計画を練って直していく。できないことを変えようとじたばたしない。奇しくも、松井さんの語るメジャーで生きていく心構えは、同じくメジャーで中継ぎのエースとして長く活躍した長谷川滋利さんが「自分管理術―チャンスに勝つ ピンチで負けない (幻冬舎文庫)」で語っていることと全く同じだ。
才能ある人が星の数ほどいて、自分の才能なんて全く信じられなくなるような状況で、どれだけ自分の心を大きく動かさずに保つか。そして過去を悔やまずに自分の未来のためにできることを頭を使ってやろうとするか。その積み重ねが一歩ずつでも未来を開くのだと彼らは教えてくれる。
特に個人的に一番松井さんの特徴が出ているなと思ったのは、チーム第一の姿勢について述べたところだ。まずは生き残る、サバイブすべきだと多くの人が言う。自分の結果を出して生き残ることが大事だと言う。しかし彼は違うのだ。

確かに、「僕らはプロ。結果が出なければクビ」です。結果を出すことが、何よりも求められます。そして僕にとっては、結果を出すための何よりの近道が、チーム最優先の打撃をすることなのです。(p153)

こんなことを堂々と言える。そしていつもそういう姿勢を崩さない。どの世界でも個人がサバイブするために必死な中、チームを生かすことで自分も生きるのだ、という姿勢を保っていられる彼には、簡単には揺るがない自信というものがあるのだなと思わされる。

…人生には失敗やスランプがつきものだ。そして、どうしても自分がそのときに必要な言葉というのがある。いつもならさらっと読み飛ばしてしまうだろう箇所も、今この本を読む自分にはとても沁みるものだった。心が揺らいでいるとき、折れてしまいそうなときに読んで欲しい一冊。