長嶋有「パラレル (文春文庫)」

新人賞を受賞した『サイドカーに犬』が竹内裕子主演で公開間近、芥川賞作家の著者による長編。
登場人物の話し方などに、真似したくなるような癖があるわけではない。しかし、読んでいただかないと伝えずらいのだが、全体として、言葉遣いがたいへん洒落ていて楽しい。言葉遣いだけではなくちりばめられたユーモアに、思わずくすっとしてしまうところも多数。
もう一つ特徴的だなと思ったのが、カッコでくくっていない地の文にときどき会話が混じること。『「そうなのよね」こないだだってそうだったじゃない。君は言った。』みたいな。読んでいくとこの表記の仕方は、テンポがよくてはまっていると感じる。かといって小説自体は、読みやすくなくもひねくれてもいない、きわめてストレートに心に問いかけてくるストーリーとなっている。
『なべてこの世はラブとジョブ』という帯がうまい。おそらく作品中からだったと思うが、言い切ったな…しかし確かにそうだな、と思わせる文句だ。必ずしも『ラブ』に重きがない人もいるが、30近くなった人間が悩んだり考えたりするのはだいたいこの二つに尽きてしまいそうだ。
今こそ共感するところが多いが、働いたり、一通り上の二つで悩まないとわからない感覚というのがある。この本もそうだ。大学入りたてくらいだとわからなかっただろう、この本への共感がある。そう思うと、大人になる、社会を知っていく、というのもまんざらではない。