市川伸一「勉強法が変わる本―心理学からのアドバイス (岩波ジュニア新書)」

いまさらながら勉強法について書かれた本を探しては読んでいる。自分の勉強法の改善のためというよりは、勉強法についてどのようにまとめられ、書かれるのが分かりやすいのか、をいろいろ見てみたいという動機である。実際に、どのように勉強法について教えられるのが教わる側にとってわかりやすいか、ということを知りたいのである。
この本は主に高校生くらいをターゲットにしている岩波ジュニア新書の一冊。認知心理学の研究に関わっている著者が、心理学が「学習」というものをどのように捉えているのか、という視点を交えながら、勉強法についてアドバイスをしていく。研究の一環として、実際に小学校高学年から高校生に個別指導もしているというだけあって、さすがにわかりやすい。
知識はどのようにすればうまく記憶できるのか、定義や公式を理解するにはどうすればいいか、問題を解くにはどう頭を使っていけばいいか、文章を書くときにどのように考えていけばいいか。この主に4つの点について、具体的な問題を挙げながら説明していく。
例えば、図を使う・実際に手を動かす、というアドバイスは、自分では自然にやっていたが、あまりきちんと教わったことがないように感じた。こうしたことも、子どもにはちゃんと教えるべき、勉強法の技術なのである。

学校の先生も、よほどていねいな人でないと、問題を解くときの図の使い方などは、指導してくれないようだ。図を書いて考えるなんてアタリマエだと思って、わざわざ教えない先生もいるだろう。(p12)

そういえばそうだ。それはちゃんと、教えられないとできない場合も多いのだ。算数などが得意でない子どもには、じーっと頭で考えてノートを汚さないことが意外と多い。このことに気づけただけでも、この本を読んだ価値があった。
同じような、大人が教えるべき技術に関することで,もう一箇所抜き出してメモしておきたい箇所がある。

ぼくがこだわっているのは、失敗からどういう教訓を引き出すかということだ。それは、自分の思い違いの発見というレベルから,自分の学習のしかたの問題点というレベルまでさまざまである。しかし、こういう教訓の引き出しをはじめから自力で行うのはむずかしい。(p16)

問題が解けることが重要なのではなく、「これまではなぜ解けなくて、どのようにしたら解けるようになったのか」を分かるという体験を重ねることが重要なのだ。そしてそのやり方は、はじめからできるものではない。教える側は、この点について特に意識せねばならないのだと改めて気づかされた。むしろ大人が読むべき本かもしれない。
これだけのアドバイスがあれば、あと勉強に必要なものは、「わからないときにわかるようにしたいという気持ち」「問題を解決したいという気持ち」である。この本が書くように、自分がどこがわかっていないのか、どのあたりを勉強する必要があるのか、について理解していくためには、自分の頭の中を掘り下げていこうとする意欲が絶対不可欠である。いくら勉強法が正しくても、そうした、若干面倒くさい(しかし実に楽しい)ことをとことんやろうとする気持ちがないと勉強を実行することができない。
当然著者もこのことには意識的であるようで、「おわりに」で、『1つ心残りなのは、当初予定していた「やる気を出す」という章を割愛してしまったことだ』と述べている。方法と、動機。スポーツでも勉強でもアートでも、この両輪があればこそ自分を高めていくことができる。自分でも他人でも、何かについて上達を図ろうとするとき、この両方について意識して考えていきたい。