マーク・ピーターセン「日本人の英語 (岩波新書)」

いろいろ文章術の本を検索しているうち、これは良い本だ、との評判が高いようだったので読んでみた。
読んでみると、これは噂に違わぬ一冊であった。
何より、著者が、言語学を専門とする人ではなく、科学論文の添削を手がけてきた人だということが、この本のわかりやすさと実践的な有用性をよく表わしている。
ネイティブの人にしかわからないような英語の細かいニュアンスを日本語で解説するような本はさまざま出版されているが、この本は特に自分のツボにはまる重要な問題を取り上げていてくれている。例えば、aとtheの違いを、日本語の「○○がある。○○は…」(例えば、「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは…」)という文に当てはめて説明してくれるところなどは、特に納得。その他にもこの本の前半では、前置詞や時制などのニュアンスをとてもわかりやすい例で解きほぐしてくれて、とても役に立った。
英語を母国語としない日本人にとっては、英語が伝えるニュアンスは全て知る必要はないものだ。自分がコミュニケーションや仕事で用いることを考えれば、実際に英語を書く(話す)場面で、いくつかの単語や構文で迷ったときに、より英語らしいものを選べればいいのだ。そうした、実践的であること、わかりやすく伝えられればそれでいいことに徹しているこの本は、もともとのターゲットである科学論文を書こうとしている人のみならず、まさに仕事などで英語を実践的に使いたい人にお勧めできる。
さらに、この本の後半では、副詞、関係詞などの使い方を中心にして、日本人の英語を、「間違ってはいないが、あまり洗練されていない表現」から「洗練された、ネイティブも納得の表現」にブラッシュアップするためのノウハウを提供してくれる。因果関係の表現の仕方などはこれまた読み返しては真似したい部分。
もちろんこれらを一度に全てを把握し自分に生かすことは難しい。しかし、主語と述語の距離が離れると分かりづらいとか、できるだけ能動態で書くべきとか、日本語の文章を書く際にも重要であると言われることが、洗練されてわかりやすい英語にするためにも言えるのだ、ということは感じ取れる。あくまで、この本を読むことは英語をより分かりやすく書いていこうとする努力の第一歩なのだ。

繰り返し読んで身体にしみつかせたい一冊。