清水義範「わが子に教える作文教室 (講談社現代新書)」

小学生に作文を教える機会があって、添削好きなぼくは、面白かったところや、もっとよくなるよーというところをがんがん赤ペンで書き込んでやったりしている。でも、ただほめているだけじゃなくて、具体的にこういうところを教えたら実際に上達する、ということがあったらいいよな、と思うことがあり、この本にたどりついた。毎週新書文庫の平積みをきっちりチェックしているので、少し前なはずだが、清水先生が、確か子どもに作文を教えている本があったなぁと思い出したのだ。
ずいぶんとそのくだらなくも面白い文章にお世話になった清水先生。彼の本を読んでいて思うのは、彼は心底文章を書くことが好きなのだ。だからこそ、子どもの作文も楽しく読んで面白いところを見つけられる。ぼくも、清水先生まではいかないが、書くのが好きだ。そして子どもの作文を読むのもほめるのも好きだ。読むとき、面白いところを見つけて、細かいところにケチはつけない。だから、清水先生も基本的にそうしているのだな、と、まずそのスタンスにとても共感して読めた。
では、具体的に、どういうことを教えてやったらよくなるのか。大人の文章を直すのと違うのだから、子どもには、わかりやすく、重要なことだけを教えてやらねばならないはずだ。自分が読んだ限りで、なるほどとうなずきポイントだと思ったところをメモしておきたい。数字の後のタイトルは、本書で実際に使われているタイトルである。わかりやすいのでそのまま書いた。

1:テーマをしぼりこめ(第8回)

その一日に何をやったか報告するんじゃなくて、すごく面白いことがあったから教えるね、という気持で書けばいいんだよ、である。(p61)

なるほどもっともである。子どもはだらだらと何でもかんでも詰め込みたがる。面白い話にしぼればいい、ということを教えるだけで、作文はぐんとよくなりそうだ。「主張したいことをしぼって書こう」と指導すれば小論文でも同じこと。

2:箇条書きという手もある(第14回)

この文章上のテクニックは、子供にとってもそうむずかしいものではなく、やってみると普通に書くより説得力のあるものが書けるので、有効である。(p99)

これも上のものと通じるものがある。だらだら脈絡なくつなげるくらいなら、箇条書きで文章を書いてみればいい。読むほうも読みやすいし。大人でも使えるのだから、そんなに稚拙なテクニックではないのだ。

3:伝わるかどうかの吟味(第29回)

作文を書く時には、これで読む人にわかってもらえるかな、ということを常に注意してなくちゃいけないよ。自分が知ってるもののことを、ほかの人も知っているかどうかはわからないんだから、書きながらいつも、この説明でわかるかな、と考えなきゃいけないんだ。(p202)

それとなくまとまっている文章を書ける子どもでも、あんがいこのあたりに配慮がないことは多い。説明が足りているかな、と少し意識してもらうだけでも、断然読みやすくなる。この清水先生の教え方はそのまま子どもにいってあげたいくらいわかりやすい。

いろいろ「これは教えておきたい」という提言はあったのだが、自分には、これこそ教えておきたいな、という要点はこの3つくらいに集約されているように感じた。なかなか客観的に自分の文章がわかりやすいかを判断するのは子どもには(大人にも)難しいが、この3つを思い返してくれるようになるだけでも、文章はずいぶんわかりやすくなりそうだ。要点を絞って、順に、相手にしっかり説明して書く。じゅうぶんではないか。

…こうしてまとめてみたあとで気づいたが、これは大人が、魅力的な企画書なり文章を書く際にも通用する基本中の基本ではないか。そういった、大人になっても役に立つようなことを子どものうちになんとなくでも分かったら、それほど良いことはない。
他にも、参考になると思われる子どもの書いた作文を他の子に読んであげると、「こういうことをこういう風に書いて良いのか」と思えるし急にレベルが上がるとか、「作文には心の動きがないといけない」と決めつけてはいけないとか、ふむふむと納得するところが多い。
子どもに生きる力をつけてあげたい大人のための、大変実践的でやる気の出る作文論。でありながらあまりにも子どもの書いた例文がおかしすぎて、これだけでも楽しめ、子どもがいなくても読む価値のある一冊。