ポール・オースター「ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)」

おなじみ柴田先生の訳で楽しめるオースターの小説が新たに文庫化されたので読んでみた。表紙の絵がまたたまらない。
これまで「ムーン・パレス」などを読んでみたことがあるが、それらにも増してファンタジー的要素の多さ、そしてドキドキ感の強さがあり、のめり込んで読めた。
空飛ぶ男の一代記が、実にちょうどいい長さで、ちょうどいいテンポで書かれている。読む人ごとに、あちこちからお気に入りの場面、お気に入りの言葉を見つけ出すことができるだろう。
ぼくのように、翻訳されてしまったものを読むだけの読者は多いだろう。それはそうだ。さすがに原書を味わって読める時間も英語の実力も無い。でも、原書を読んだことがなくても、この小説の登場人物の言葉遣い、スラングなど、この訳し方しかない、というような練り込み方なのだろうなと感じられる。つまりは、さすがというべきか、読んでいて実に自然なのだ。まるで母国語の小説を読んでいるようだ。いや、母国語の難しい小説よりも読みやすいかもしれない。小説の面白さ、のめり込ませる要素というのは世界共通だということがとてもよくわかる。
これを機会に、オースターと柴田先生の作品を味わってみてはいかが?


ミスター・ヴァーティゴ

  • 著:ポール オースター
  • 出版社:新潮社
  • 定価:740円
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