笑うに笑えない書店員

駅に隣接したチェーンの書店で新書をざーっと一通り見て一冊購入。
そのあいだ、レジのほうからおばさんの声が聞こえる。「私無知なので申し訳ないんですけど、『たそがれ清兵衛』」を見て、原作が気になりましたので探しているのです」とのこと。
まぁそういう人もいるだろう。パソコンを使い慣れていないおばさまには、アマゾンで探すより書店で聞いたほうが早いというのもよくわかる。こういうのに答えられるのがチェーンの本屋のいいところなわけで、おばさまには「アマゾンでさがせばいいのに」なんて冷たいことは言いたくない。
さて、応対しているのは30を少し過ぎたくらいの女店員。注文は、(ぼくには)簡単だと思えた。なんせ、映画化されているくらいの本だ。そういう売れどころは、文庫の棚に平積みにされていて、「おすすめ!映画化!」などと帯がついているのが普通だ。
しかも、相談を受けているのは、チェーン展開している書店の、とはいえ書店員さんだ。さぞや、「お客様、それはこちらです」とすぐに案内できるかと思いきや…「ちょっとお待ちください」と言ってレジ内のパソコンで探し始めた。しかも、どうやらそもそも作者の藤沢周平の名前が出てこないらしい。
これだけでもおやおや、それでも本屋さんですかと思うのだが(なにせ難しい本ではないのだ)、まだ続きがある。レジから出てきた店員さん、作者の名前を確認できたのか、文春文庫の棚の藤沢周平の場所を探し始めた。しかし、ない。ないが、本の置き場を知っている人なら次に目をやるところはだいたい決まっているはずだ。
答えからいっておくと、ぼくはすでに新潮文庫の平積みにその本があることを確認していた。いじわるなのもあるしおせっかいをやきたくないのもあって、教えはしなかったけど。ぼくも実は、レジにおばさんが現れたときに、どこにあるかなぁとその本を、最初に文春文庫を探し、そこになかったから新潮文庫に見つけたのだ。同じ作家で、有名な本なら、いくつかの会社の文庫の棚を順番に見ていけば、どこかにはあるはずだ。だからきっと店員さんも、つぎは当然新潮文庫(でなくても角川でも幻冬舎でもいいけど)の棚を探すだろうなぁと思っていた*1
しかし店員さん、レジに戻っておかしいなぁとまたパソコンでさがしはじめる。おいおい…文庫はいくつか会社があるのだから、隣を見るくらい簡単じゃないか…そういう本の配置のこともわからないで本屋さんにいるのか。彼女は、パソコンで見つけたのか、「新潮文庫なんだー」とつぶやくや『たそがれ清兵衛』をついに探し出せた。彼女と一緒にレジにいて接客をしていなかった店員が二名ほどいたが、だれもすぐに「あそこだよ任せとき」と言い出す人はいなかった。ほんとにみんな知らなかったのだとすると、これはすごいことだ。
書店員って、そんなものなのね…。みんながそうだとはいわないし、難しい本まですぐに出せとは言わない。ただ、せめてそういう一時ベストセラーになったものとか、そういうのくらいぱっと出せるようであってほしいよなぁ。だいたい、小さい本屋なんだし、あるだろう場所もそんなに多くない。もうそういう役割を本屋さんに期待する人もあまりいないのかもしれないけど、あんまりで笑えない。
みなさんの近くの本屋さんは、どうですか。ためしに、無知なふりをして名作とか売れ線の本の場所を聞いてみて、本屋さんのレベルを測ってみるのもおもしろいかも。

*1:ちなみに、もっと本のことを知っているひとなら、この作家ならどこの文庫に多い、といった偏りまでわかっていたりする。さすがにそこまでは求めないけど