橋本治「あなたの苦手な彼女について (ちくま新書)」

自分で自分の書いているものを「ややこしい」と言ってはばからない橋本治の新書の新刊。くねくねとしつこく物事を考えていく著者の本に魅入られている。しかし、どこがどう面白いのだ?読みたくなるようにおすすめしてくれ、と言われるとどうしたらいいのかわからないのも、また著者なのである。
この本は、『女そのものを格別に苦手と思うわけではないが、その”女”というカテゴリーに属する者の中に、苦手としか言いようのない女がいる(p7)』というところからタイトルがついている。読んでいくうち、これが女性差別を主に考えていく本だということがわかる。
女というものが歴史上ほとんど重要と見られてこなかった、この本で言う「男社会」という時代から、戦後豊かとなって、女性が社会進出するまでの過程を、著者お得意の源氏物語の時代の話や、裁縫(著者は裁縫の本も出しているくらい得意なのである)など家事についての話を交えながら語っていく。豊かになって、家事がどんどん楽になって、専業主婦が全ての家事を統べていた時代と異なってきたことに現代の女性を巡る問題があると論じていくのだが、この本は決して男女どちらかに問題があるとするわけではない。著者はただ、その変わってきた社会の状況を観ながら、もう少し違うやりかたがあるのではないかな、と感想を述べているだけのように思える。それではどうしたらいいのだろう、というところは読者に任されている。
ただ一つ、最後の方で、結婚して新たにできる「家」というものをもう少し真剣に考えた方がいいのではないかという流れになるのだが、これはふうむと思った。確かに、結婚すると、どちらかの親の家が継がれるのではなくて、新しい家が一つできることは、象徴的だ。古くさい「伝えるもの」としての家ではなくて、一つの社会の単位としての家を男も女ももう少し大切に思っていったほうがいい、というのは確かにそうだ。
『結婚がどんなものかという共通理解が社会全般に浸透している(p215)』があれば、見合結婚でも円満夫婦というものが存在していたのだ、という結婚についての考え方や、『名前というものは人のあり方に従う(p251)』ということを考えてもいいのでは、という指摘は、はからずもこのあいだ読んだ「落語の国からのぞいてみれば」を思い起こさせる。自然とそういう江戸的というか、前時代的な考えが出てくるところが、商人の家に生まれた著者の書くもののベースにあるのは間違いない。