畑中正一「殺人ウイルスの謎に迫る! (サイエンス・アイ新書)」

ウイルス学の大御所による、今話題になっているさまざまなウイルスについて解説するわかりやすい新書。マンガも入っていて誰でも読みやすく仕上がっている。
しかし中身はけっこう濃い。ノーベル賞を受賞したHIVやパピローマウイルスの発見や病気を引き起こす機構について書かれているのは、最近の話題を考慮してのことだろうからわかるとして、インフルエンザウイルスについてももちろん、さらに、少し前に大きな問題となったSARSコロナウイルス、現在でも問題となり続けている肝炎ウイルス、そしてポリオウイルスなど歴史上重要なウイルスについての話もしっかり詰め込まれている。
また、ウイルスに対抗する人の能力について書いている章では、抗体が関わるよく知られている免疫とは別の「自然免疫」についてそれなりのページを割いて紹介している。TLRという研究が進んでいる受容体のことも書かれていて、ここにも、現在重要な研究テーマとなっていることについて一般の人にしっかり知ってもらおうとする著者の意図がよく現れている。
さらには、鳥からヒト、など宿主を新たにした際が一番病原性が強くなること、同じ宿主で伝搬し続けると病原性が弱まること、それはどのように説明できるか、についても書かれている(p120)など、一般の人がウイルスについて疑問に思う点はかなり網羅していると感じた。植物のウイルスについてもなんと1章をかけて触れられていて、実に目配りが広い。
個人的には、パピローマウイルスの発癌性機構について触れられていたのが勉強になった。自分でもう少し調べてみようという気になる。もちろん、細かいところまで完璧に書かれているような本ではないが、必要最低限のことは大きな間違いはなく書かれており一通りを知ることができる。実際、自分でもいくつかのウイルスについてはwikipediaで調べてみたりして、なかなか勉強欲が刺激された。ウイルスについて知りたい人にはおすすめの一冊。
ちなみに著者の畑中先生は、「ウイルス学」というでかい本を編集しており、これがまたすごい。動物と植物のウイルスを幅広く網羅し、当時までの研究状況を細かく記載している。コンピューターウイルスもウイルスとして同じ本におさめてしまうあたりに、著者の幅広さがわかる。

ウイルス学

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