小谷野敦「日本の有名一族―近代エスタブリッシュメントの系図集 (幻冬舎新書)」

もてない男」であまりにも有名な著者が、さまざまな日本の有名な一族の家系図とその個別の人物の略歴を紹介する一冊。
有名一族、とあるが、もちろん同じ家系図に載っている一族の中には、それほど有名でない人もいる。もちろん、有名かどうかは読む人がどれだけ詳しいかにもよるだろうが、一人一人の有名度や暮し向きなどは濃淡があって、それがまた面白い。
そのあたりの面白さは著者も強く感じるところのようで、全員が全員ご立派な学者一族などを評して『もっとも、こうずらりとエリートが並ぶと、筆者などにはあまり面白くない。(p162)』などとぽろっと書いたりしている。
のみならず、あまり知られていないが再評価されるべき人物についての興味の表明や、実態以上に評価されているきらいのある人物への皮肉など、ところどころに挟まれる著者の個人的評価が読んでいて楽しい。
著者らしいことに、特に作家、古典芸能、大学人に詳しく、ああそうだったか、と自分の知識を確認したりふやしたりできる。ゴシップ的な楽しみ方もさることながら、ありそうでなかったような、読書のお供にぴったりの一冊である。