「アイデン & ティティ [DVD]」

友達に勧められて、レンタルビデオショップに毎週通ったが、いつも貸し出し中で一月も待ったこの映画。確かに面白かった。
バンドブームが去るとともに落ちぶれていく一つのロックバンド。商業主義とやりたいことの間で、どんどん方向が見えなくなっていく。
理想を追いつづけることの難しさとぶれやすさ。そして一人にその夢を受け入れてもらうことのなんという尊さ。どんなに青臭いと感じられようが、この映画の伝えたい青春、悩み、そしてそれを超えようとする大変さは、物を生み出すことで生きていこうとする人間に思い当たるところがあるはずだ。
『不幸なことに、不幸なことがなかったんだ』というセリフに特に感じるものがあった。不幸なことがあれば、そのなかでもがき、乗り越えようとする中から生まれるクリエイティビティがある。そうして多くの音楽や作品が生み出されてきた。でも、不幸も不自由もなく生きてきた人間はどうやって物を作り出すエネルギーを得ればいいのか。何も生み出す気がなくなってしまうような「不幸のなさ」は、逆に不幸だという主人公の気づきは、なんだかとてもよくわかる。
うまく世を渡る業界人を極端にデフォルメして描いたり、とても笑えるところも多く楽しい。