「太陽 [DVD]」

ロシアのソクーロフ監督が撮った、イッセー尾形が演じる「エンペラー」。
日本だとどうしてもデリケートな扱いになってしまいそうなこの映画。不謹慎かもしれないが、イッセー尾形さんの演技がとてもユーモラスで、その手や口元、歩き方から話し方まで、全てに魅入ってしまう。
敗戦を目の前にした国家元首の孤独感という意味では前に映画館で見た『』を思い出した。その主人公のどこか神経質な感じや癖のある挙動、その奥に抱えた孤独感は似ているが、その雰囲気や置かれた状況はまったく違う。この「太陽」の主人公である「エンペラー」の孤独さはとてつもない静けさの中にある。侍従以外に、いや侍従でさえも、かもしれないが、神である彼の言葉にまともに返事を返すものはいない。カリカリと筆記するペンの音だけが彼の独り言に応えるように響く。研究対象の海洋生物を見て目を輝かせる彼の言葉に応えるのもまた、ペンの音だけだ。これはさびしい。
それは映画が中盤あたりに差し掛かり、戦争が終わってもあまり変わらない。歴史の通り、彼の前に積極的に会話を試みようとする人間が現れるが、結局、主人公は、相手がいるようでいないような会話を繰り返すだけだ。とはいっても、自らと国の行く末が左右される可能性のある会話なだけに、その会話にはどこか計算ずくのところがあり、前半と比べて生じた緊迫感がたまらない。主人公に味方は一人もいない。コケにされても、彼は彼のペースで相手と接して事態を乗り切っていく。これがまたなんとも言えずさびしい。
なんだか、イッセー尾形さん演じる主人公がまさに一人で芝居をしていて、周りが全てただの背景になってしまったように見えてくる不思議さ。
このとてつもない孤独さがあるから、終わりまで見たときの、胸を突くような感じがある。
評判になっただけあって、こいつは面白い映画だった。