鈴木淳史「チラシで楽しむクラシック―私をコンサートに連れてって」

クラシックのコンサートに行くと必ずもらえるチラシ。日本の今や昔のクラシックのチラシに注目し、そのバラエティに富んだチラシの数々を観賞しつつ、昔を懐かしんだりそのデザインを楽しんでみましょうというコンセプトの一冊。
企画としては、実に面白い。歴史編、人物編とスポットの当て方を変えて見せる趣向も面白い。歴史編では、コンサートの様子や、演奏家のその当時の演奏スタイルなども解説していて、当時を知らない自分のような読者には楽しめる。
確かに、クラシックコンサートのチラシというのは、なぜか一通り目を通してしまう不思議な広告だ。ドーンと演奏者の顔が大写しになっていたり、華麗な言葉で人をひきつけようとしたり。そのバラエティは新聞に入っている食品や衣料品店のチラシの比ではない。それを心ゆくまで堪能させてくれる一冊。
クラシック批評家の著者が企画を持ち込まれて書いた企画とのことで、バランスの取れた本となっているのは良いと思う。誰でも読めて、それなりに面白い。その一方で、私が実は読む前に期待していたのは、「実際にチラシを懸命に収集している名もなき個人が、そのコレクションの素人目にはよくわからない珍しさや面白さをマニアックに語ってくれる少し敷居の高い本」なのであった。鉄道ファンと同じように、クラシックのチラシファンが縦横無尽に好き勝手に語るのだ。面白そうではないか。
この本もそういうところがないではないのだが、申し訳ないのですが、余技、という感じを受けてしまった。もう少し思いっきりやってもらってもよかった。
でも、この本はタイトルに表れているコンセプトがなんたっていいのだ。それだけでも、見てみる価値はある。特に、演奏者、指揮者のチラシの変遷とイメージを追っていく、人物編が面白かった。

チラシで楽しむクラシック

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