林信吾「反戦軍事学 (朝日新書)」

『世間知らずじゃ、勤まらない人へ。』というキャッチコピーで創刊した朝日新書の一冊。
『軍事について正しい知識を持てば、戦争賛美などできなくなる(p21)』という考え方にも、反戦の立場から軍事論を語るというスタンスにも共感できるし面白いと思う。このコンセプトだけでも十分一冊本を出す価値はある。戦争をせずして勝つような備えをするべし、それが一番いい軍事である、という意味のことを言ったのは孫子だったか。それについて語ろうとする本はどんどん出てくるべきだし、真っ向からそういうタイトルをつけた点もいい。
しかし、スタンスの良さと内容の面白さは全く別のものだ。
軍事についての知識を教養として知ってほしいとのことだが、著者が最後にブックリストをあげているように、この分野にはたくさんの類書がある。この本を読んでみようかなと思う人ならば、この本の前半に書いてある程度の知識ならさすがに持っている人が多いのではなかろうか。分かる人には、どういうところが正しくて、どういうところがおかしいかくらいは分かるのだろうと思う。少なくとも、著者があげている類書に比べて、軍事に関する知識を得るのにこの本でなくては、という説得力には乏しい。
そのうえ、その軍事知識を使って戦争賛美論に対する批判を繰り広げているが、なにぶんとっちらかっており説得力に乏しい。靖国批判も「靖国問題 (ちくま新書)」を読めば十分だし、他の本に対する批判も、面白い点はあるが散発的に見えてしまうのが残念。もう少しまとまった形で議論できそうだ。
しかし、世の中もっと半端な議論をしている本もたくさんあるのだろうなと思わせてくれるあたり、捨てたものではないのがこの本。核武装だとか戦争を肯定しようとする本のほうがもっと怪しいものはたくさんありそうだ、ということもわかってしまう。そうした本に対する著者の啖呵はなかなか爽快。そうした本にもいちいち対案を示しており、現実としてどうかはわからないもののアイディアとして面白いものが多い。
ブックリストも充実しているし、『超弩級』の語源がわからない人くらいには、軍事を考えるとっかかりとしてためになる本であるとお勧めできる。
それにしてもどうにも切ないことに、この新書のシリーズは、タイトルにもあまりひかれないし、書店で立ち読みしても買おうという気にならない。新書を創刊するなら、光文社とまでは言わないが、せめて幻冬舎くらいには読みたい気分にさせるようなタイトルを頑張って出して欲しいところ。


反戦軍事学

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