内田亮子「生命(いのち)をつなぐ進化のふしぎ―生物人類学への招待 (ちくま新書)」

著者はチンパンジーなど霊長類の研究を通して、進化的な視点から人間や動物の生き方について考える研究者。「食べる」「みんなと生きる」「連れ合う」「育つ・育てる」といったさまざまな観点において、人間と他の動物の行動の共通点や違う点を明らかにしていく。
ストレスと健康とか、食べ物の摂取のしかたとか、霊長類の研究から人間の生活への示唆が得られるような話題は特に面白い。そういう部分を含め、我々の普段の生活や身近な話題を取り入れながら話題を展開していくので、生物学になじみのない人でも読みやすい。第五章など、著者自身の研究の一端を紹介するくだりからは、こういう本で個人的に大事だと思っている「現場感」も感じられる。一方で、参考文献がぎっしりと並び、おおげさだったり誤った書き方をしないように配慮しつつ、進化に関する研究について語っていくところは、一般向けだからといって手抜きがなくて好感が持てる。
話題も豊富で、紹介される知見も、研究をあまりする時間のない偉い人では自信を持って書けないだろう最新のものが詰め込まれていて、元の論文を読んでみようかという気になるくらい面白い。
ここからは自分用のメモである。
自分に関していえば、これだけ生物学に関わってきながら、「はじめに」の以下の文章を読んで、なるほど生物学とはこのような学問だと考えていくといいな、と思ってしまうあたりが勉強の足りないところを露呈してしまう。でも、自分の勉強のためにも、これは頭においておきたいなと思ったのでメモしておく。

行動を含めた生物学的現象(形質)にはバラツキがあり、ある形質の頻度は高く、他の頻度は低い。そのバラツキのパターンの「どのように」という至近因(遺伝・発達・生理学的メカニズムなど)と「どうして」という究極因(歴史・適応的意義)において共通点と相違点を解明することで、それぞれの生き物の理解を深めるのが生物学である。(p10)

簡単にいえば、生物がある行動をしたり、ある特徴を持つことの原因を解明するのが生物学だと。ある行動や特徴は、ある動物の繁殖のしかたでもいいし、キリンの首が長いこと、でも、ある動物の足が5本足であるものが3本足であること、でもなんでもいい。そして、その研究は、遺伝的原因など、ある意味マニアックな原因(至近因)をしっかり突き詰めるだけでなく、それがどのような理由・意味からそうなったのか、をわかりやすく(進化の考え方を用いて)説明すること(究極因)が大切なのだ、ということだ。
自然といままでそのようにやってきたのかもしれないが、今後は、漫然と考えていくのではなく、生物学の研究にはこの二つがあるのだ、と意識してみることも大事であるのかもしれない、と思った。